セラピストにむけた情報発信



立位姿勢制御の自然な揺らぎを意志的に抑えることはできるか?



2009年1月22日

今回紹介するのは,立位姿勢制御課題を対象として,意志と身体運動の関係性に迫った研究です.

Danna-Dos-Santos et al. Is voluntary control of natural postural sway possible?
J Mot Behav 40, 179-185, 2008

私たちの研究室では身体運動における意識と無意識の側面に関心がありますので,大変興味深い論文タイトルです.

結論を先に申しますと,自然発生的に生じるわずかな姿勢の揺らぎを,意志的に抑えることはできませんでした.論文を詳しく読みますと,この結論にはさまざまな付帯条件をつける必要があると感じましたが,いずれにせよ興味深い内容です.

実験参加者は若齢成人であり,両足を15cm間隔に広げた姿勢で,できるだけ姿勢がぐらつかないように60秒間維持することが求められました.揺らぎの状態はフォースプレート上の足圧中心(COP)で評価します.参加者が意志的に揺らぎを抑えることを促すため,実験ではCOPの軌跡をディスプレイ上で視認できる条件,およびレーザーポインタをつけた帽子を付けてもらい,レーザービームの動きが参加者の3m前方のスクリーンに映しだされる条件という2つの条件が設定されました.すなわち実験では,実験参加者がこれら2つの視覚フィードバック情報を利用することで,自然発生的な揺らぎを減少させることができるかどうかを検討しました.

実験の結果,2つの視覚フィードバック条件は,自然発生的な揺らぎを抑えることに役に立ちませんでした.むしろ視覚フィードバック条件を付与したほうが,しない場合よりもCOPの有効面積が広くなっているような印象すら受けます(統計的に有意ではありません).

この結果から,少なくとも若齢健常者の場合,適度なスタンスでまっすぐな姿勢を維持した時にわずかに発生してしまう揺らぎについては,フィードバック情報を利用して意志的に抑えることはできないといえます.

この研究の1つのポイントは,実験課題が比較的簡単な姿勢制御課題であり,もともとCOPの揺らぎの程度が非常に小さいということです.よって,そもそもフィードバックを与えられない通常条件においても,ベースラインとなるCOPの揺らぎの度合いは非常に小さくなっています.

したがって今回の研究結果は,「姿勢の揺らぎを最小限に抑えることができている状況下で,視覚フィードバック情報を用いてさらにその揺らぎを止めてしまおうとしても,それはできない」と解釈すべきように思います.

片足立ちや不安定な床面での姿勢制御のように難しい場面ではどうか,あるいは姿勢保持能力が低い対象者ではどうかなど,さまざまな条件下での検討によって,姿勢制御のどのような側面が意志的にコントロールできるか,といった説明ができるようになると期待されます.

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